デス・オーバチュア
第293話「個人技から生じる合体技」



「ふぅん」
アドーナイオスは「飛んできた赤暗い火の粉」を、左手で軽く払い除ける。
「赦(しゃ)っ!」
波打つような剣刃がアドーナイオスの仮面の左頬を掠めた。
火の粉に注意がいったほんの一瞬の間に、アスモデウスは間合いを詰めてきたのである。
「フッ……」
アスモデウスは猛烈な突きの連打(ラッシュ)を放った。
「……ふぅんっ!」
アドーナイオスは後退して連打から逃れると同時に、両手剣を片手で振り下ろす。
「絡(らく)っ!」
後ろや左右に避けるのではなく、アスモデウスはさらに前へと踏み出した。
「ちっ……」
両手剣の剣刃は大地を砕き、擬炎波刃はアドーナイオスの右頬を掠め抜く。
「振り下ろしに突きでカウンター……大した度胸だっ!」
アドーナイオスは左足の踏み込みと共に、左手を『突き』だした。
「くぅ……!」
アスモデウスはとっさに体を捻り、背中でアドーナイオスの拳の直撃を受ける。
「あああぁぁぁぁぁっっっっ!?」
弓から解き放たれた矢のように、アスモデウスは凄まじい勢いで遠方へと吹き飛んでいった。
「腹を狙ったのだがな……素晴らしい反応速度だ」
アドーナイオスはアスモデウスの『実力』を絶賛する。
両手剣と片手剣の違いこそあれ、剣術だけのレベル……才覚なら相手の方が上だった。
あの短い手合わせだけで、アドーナイオスはそのことを悟る。
「だが……圧倒的な力は技をも凌駕する……!」
アドーナイオスが左足で思いっきり地面を踏みつけると、大地が震撼した。
「あら、あなたのそれも『技』ではなくて?」
貪欲なる成金令嬢(悪魔)マモンがアドーナイオスの後方に出現する。
「……だから、一人一人出てくるなと……言ったはずだっ!」
アドーナイオスは振り返りの勢いを乗せて、両手剣を横に一閃した。
「おおっと」
マモンは両手剣から放たれた超大な闘気の刃を、ふわりと宙に跳び上がってかわす。
「地っ!」
左手小指に填められたトパーズが輝くと、金剛針鞭(金剛石を連ねた針鞭)が打ち出され、アドーナイオスへと襲いかかった。
「脆弱っ!」
アドーナイオスは両手剣を振るって巻き起こした剣風だけで、金剛針鞭を吹き飛ばす。
「そのような弱者の針、我が剣にすら届かぬわっ!」
「きゃあっ!」
第二撃が巻き起こした剣風がマモンを直撃し、彼女を地へと叩き落とした。
「痛ぅぅ……確かに出力(パワー)が段違いですわね……」
マモンは洋服に付いた埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「解ったなら、全員で纏……」
「ええ、ここからは全力……本気で遊んで差し上げますわっ!」
「短い棒(ロッド)?」
いつの間にか、マモンの右手には「禍々しく仰々しいデザインの杖のような黒棒」が握られていた。
「火(ファイア)!」
マモンの声に応え、黒棒の先端から炎が噴き出し『鞭』と化す。
「炎の鞭? さっきの悪魔と大して変わ……」
「水(アクア)! 風(エアー)! 雷(サンダー)!」
黒棒から噴き出すモノが次々に切り替わり、水鞭、風鞭、雷鞭と姿を変えていった。
「ふぅん、器用なことだ……で、全部で何種類あるのかな~?」
アドーナイオスはからかうような口調で尋ねる。
マモンの多彩な『鞭』がかなりの威力を有していることには気づいていたが、それでも彼の目から見ればこんな術は『曲芸』に過ぎなかった。
「十属性……あたくしの宝石の種類と同じ……」
「なるほど、属性に対応した宝石が輝いている……さしずめ宝石使いといったところか?」
「見せ(魅せ)たいモノはここから……これがあたくしの本気……全力全開ですわっ!!!」
黒棒の先端から同時に十色(十種類)の光輝が爆発的に噴出し、絡み合っていく。
「混輝爆流鞭(マーブルビュート)!!!!」
マモンは混じり合いマーブル状になった光輝の爆流を鞭のようにしならせ、アドーナイオスへと打ち下ろした。



「ちっ!」
アドーナイオスは間一髪で空へと跳び離れた。
混輝爆流鞭が叩き付けられた大地が、派手で多彩で壮絶な爆発を起こす。
「逃しませんわっ!」
爆発の中から混輝爆流鞭が振り上げられ、上空のアドーナイオスへと迫った。
「爆流の鞭か……大した出力だっ!」
アドーナイオスは全身から青い闘気を放出しながら、素手の左手を突き出す。
「はあああっ!」
青き闘気を集束させた左掌と、混雑に輝く爆流の鞭が正面から衝突した。
「っっっぅぅぅぅ……がはぁっ!」
数秒の均衡の後、アドーナイオスは弾き飛ばされ、混輝爆流鞭が天空を引き裂く。
「……ふぅん、『生身』で受ければ細胞一つ残さず消し飛べそうだな……」
アドーナイオスは『触診』することで、混輝爆流鞭の高出力(破壊力)を改めて実感した。
「当然ですわ! このあたくしのエクセレントでエレガントな鞭捌きに耐えれる者など存在しませんわ!」
マモンは再び混輝爆流鞭を振るい、アドーナイオスを追撃する。
「受けきれぬなら……断ち切るまでだぁぁっ!」
アドーナイオスは両手剣から超大な闘気の刃を放ち、混輝の爆流をばっさりと切断した。
「凄い切れ味……でも、無意味ですわ!」
黒杖から新たに混雑の光輝が噴き出し、爆流の鞭は元の長さを取り戻す。
「例え、流れる滝を両断できようとも……それは一瞬水の流れを止めただけのこと、瞬断に過ぎませんわ」
「……源を破壊しない限り無意味……ということか……?」
「そういうことですわぁっ!」
マモンは混輝爆流鞭を乱れ振るった。
「ちっ……」
混輝爆流鞭は先程滝に例えられたように、とてつもなく巨大で爆発的な『輝流(きりゅう)』の鞭である。
その輝流に呑み込まれた(打ち込まれた)ら最後、人の体など瞬時に跡形もなく消滅してしまうだろう。
「面倒だが避けるしかないか……」
アドーナイオスは、混輝爆流鞭の乱打を紙一重で回避し続けた。
一打でも受ければ、『今の体』では耐えきれない……。
「ちょろちょろと……いつまでもあたくしの猛攻から逃げ切れるとは……思わぬことですわぁぁぁっ!」
猛攻……その言葉に相応しく、混輝爆流鞭の乱打の激しさが飛躍的に跳ね上がった。
「ふぅん……避ける方が面倒か?」
それでも避け続けるアドーナイオスだったが、だんだんと余裕が無くなり、追い詰められていく。
「打つ(ビュートォォッ)!!!」
「ぐううぅっ!」
ついにアドーナイオスをとらえた混輝の爆流が、そのまま大地へと叩き付けられた。




巻き起こる壮絶多彩な爆発。
「……殺りましたわ……よね?」
間違いなく手応えはあった。
アドーナイオスは絶対に輝流と大地の間に挟まれた……はずである。
「輝流に呑まれて消滅したか? 圧力(破壊力)で粉砕されたか? いずれにしろ今の一打に耐えられるはずが……」
多彩な爆発が晴れ、大地に伏す混輝爆流鞭が姿を現した。
「ほぅ~ら、やはり跡形もなく消え……さあああああああああぁぁっ!?」
マモンを驚愕させたのは、大地と混輝爆流鞭の間に存在する空間。
そう、混輝爆流鞭は大地まで届いていなかったのだ。
「…………」
大地と混輝爆流鞭の隙間、そこに居るのは竜面の男(アドーナイオス)。
「化け物……ですわ……」
「ふぅん、心外だな」
アドーナイオスは左手一本で混輝爆流鞭を軽々と受け止めていた。
「この嘘つき! 受け止めきれないと言ったじゃありませんの!」
「ああ、嘘はついていない。さっきまでの私では確かに無理だった……」
「えっ? どういう意味……」
「ほら、返すぞ」
「きゃあっ!?」
伸ばしきった状態の左腕が微かに動いたかと思うと、混輝爆流鞭が宙へと押し上げられる。
当然、混輝爆流鞭の柄を握っていたマモンもまた空へと引き上げられていった。
「威力に比例した超大さがその武器の最大の欠点だな。自分の方が武器に振り回されていれば世話はない……」
アドーナイオスは空に昇っていくマモンに、青く光り輝く左掌を向ける。
「消え……」
「擬炎斬波(フレイムザッパー)!」
「何っ!?」
掌から闘気砲の類を放とうとしていたアドーナイオスの目前を、赤炎が疾風の如く駆け抜けていった。
「ほう、咄嗟に技を中断し身を退いたか……流石だな」
赤炎の駆けてきた先では、アスモデウスが擬炎波刃を地へと振り下ろしている。
「ふぅん……斬る炎か……?」
アドーナイオスのコートの右袖が綺麗に『灼き斬られ』ていた。
「そんなところだ……」
アスモデウスは擬炎波刃を正眼に構える。
「擬炎斬波!」
擬炎波刃が振り下ろされると、地から赤炎が走った。
「ふぅん」
アドーナイオスは空へと跳び逃れる。
「速さと鋭さはかなりのものだが、軌道は至極読みやすい」
最初のような不意打ちでない限り、アドーナイオスには充分対処可能な攻撃だった。
「双龍……破ァァァッ!!!」
突如、天空より『蒼光の龍』が飛来し、アドーナイオスへと襲いかかる。
「ちっ……」
アドーナイオスは両手剣の背を盾にするようにして突き出した。
蒼光の龍が両手剣に噛みつくと、派手な剣戟の音が響き渡る。
「武器を投げたか……」
よく見ると、蒼光の龍の口内には蒼龍偃月牙が仕込まれていた。
「そして、貴様の一撃は常に……」
アドーナイオスはしゃがみ込むようにしながら、蒼光の龍(蒼龍偃月牙)を後方へと押し流す。
「……『双龍』だったなっ!」
さらに、アドーナイオスは死角から迫っていた『二匹目の蒼光の龍』を回転斬りで打ち払った。
「स्वस्तिक (スヴァスティカ)!」
「くっ!?」
骸骨の大鎌が四本連結した『卍』のような武器が、アドーナイオスの背中を剔る。
「お望み通りの全員攻撃よ~」
卍型大鎌は、黒ずくめの美女(アダルト版ベルゼブブ)が天へと翳す右手の掌上へと引き戻されていった。
「っぅ、誰だ、貴……うっ?」
いきなりの轟音と共に、上空が明るくなる。
「太陽……いや、雷の……」
遙か上空を仰ぐとベルフェゴールが浮いており、彼女の翳す長杖の先端には球状に集束する雷(イカヅチ)が太陽の如く光り輝いていた。
「あたくしも忘れて貰っては困りますわっ!」
雷の太陽に対抗するように、右隣に十色の輝きが複雑に混ざり合った太陽が発生する。
「んっ?」
中天に存在する二つの太陽より東方に、さらにもう一つの蒼き輝きがあった。
「…………」
蒼光の闘気を全身から発しながら青一色の女性(シャリート)が舞っている。
シャリートは舞いながら左右の手に持っていた『青龍の描かれた美麗な柳葉刀(りゅうようとう)』の刀首(柄頭)を連結させた。
できあがったのは『逆刃双刀(ランサー)』……両先端に逆向きの刃を持つ『短い旋回刃(スクリュー)』。
シャリートは頭上に伸ばした右手の指先で、旋回刃を超高速で回転させだした。
超高速回転する旋回刃に、シャリートの蒼光の闘気が物凄い勢いで吸い上げられていく。
「双龍の爪よ、余の残る力全てを喰らい尽くし、蹂躙の蒼刃と成せ……」
シャリートの蒼光の闘気を吸い尽くした旋回刃は、蒼輝の円月と化した。
「二つの太陽の次は蒼き月か……むうっ!?」
前方から熱気が、後方から寒気が、同時にアドーナイオスを襲う。
「擬炎解放……」
アスモデウスの突き出す擬炎波刃の刀身が赤く熱く輝き、彼女の背後に巨大な火柱が噴き上がった。
「ふぅ~、食事の時間よ、メリクリウス」
ベルゼブブは口から紫煙を吐き出すと、左手の指先でキセルを狂々(クルクル)と回す。
旋回するキセルは銀色の大鎌へと変じ、ベルゼブブの両手にしっかりと握られた。
「水星の一撃(マーキュリアルストライク)!!!」
大鎌の一閃と共に、青白い炎でできた超巨大球が超速で撃ちだされる。
「擬炎猛烈風(フレイムブラスト)!!!」
火柱が擬炎波刃が指し示す先……アドーナイオスに向かって猛烈な勢いで吹き付けられる。
「龍爪廻転刃(りゅうそうかいてんじん)!!!」
「雷神の戦槌(トールハンマー)!!!」
「混輝彗星弾(マーブルコメット)!!!」
シャリートが蒼輝の円月を投擲した瞬間、雷と混輝の二つの太陽もまた地上へと解き放たれた。
蒼刃、雷光、混輝、烈火、青炎……五つの膨大な破壊の力(エナジー)がアドーナイオスを挟撃する。
「ちぃぃぃっ!」
五つの破壊の力が激突し生じた超爆発が、アドーナイオスの姿を消し飛ばした。













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一言感想板
一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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DEATH・OVERTURE~死神序曲~